特別インタビュー

2008-10-28 Tue

松田直/エイベックス・エンタテインメント音楽事業本部第3制作部部長

 

世代を超えた音楽を創りだそう!

今回はエイベックス・エンタテインメント/音楽事業本部第3制作部部長松田直さんにお話を伺いました。

インタビュー

---次世代を担うアーティストとして不可欠な要素とは
 
アーティストを目指す人にとってどんな時代でも大切な事は、自分の『特長』を 信じてそれを伸ばしていく事、それから自分の価値観と自分以外の人のそれがどんな風に違うのか、或いは一緒なのかを客観性を持って観察する事も必要だと思 います。具体的な事で言えば僕はずっと「声」に興味を持ってきましたので、自分なりの声質というものを最大限に生かす事がオーデョンにとっては重要だと思います。楽曲選びもとても重要ですね。
 
--今まで松田さんが携わったアーティストで印象的だったことは
 
ずいぶ ん多くのアーティストとの出会いがありましたが、ゼロからスタートして一つのカタチを創れたケースでは、今井美樹という人が印象に残っています。彼女は声質が圧倒的によかった。オーディション当初は写真も何もなくてテープを渡されただけだったんですが、声を聴いて迷わず「ゴー」でしたね。声の質感っていう のはすごく大事だし、これは親から授かったものだと思いますが、歌がうまい下手は実は審査基準においてあまり大きな影響はないんですよ。その人の表情、表現力とかっていうのが声の質感も含めて重要な要素だと感じてますね。その点美樹は秀逸でした。
 

--大きく成長していったアーティストの中で「これは大事だった」ということは
 
コ ンプレックスを持っているということですかね。コンプレックスっていう言葉にはネガティブな印象がありますが、裏を返せば魅力でもあると思うんです。最初から自信満々な人はそれはそれで神々しく見えたりしますけど、どうなんでしょね。どこかに弱さだとか、もっとこうだったらいいのになと思うからこそ力を貸 したいって手を挙げるようなところがあると思います。コンプレックスを逆手に取る事は技術的には難しい所もありますが、コンプレックスが強い人には反動する力がありますよね。
 
 
--プロになれずに脱落していく人も当然いる厳しい世界ですが、その分かれ目はどこにあると思いますか?
 
デ ビューをする事が前提であれば、100パーセントできると思っています。「本当に」そう思っていれば。でも、将来のこと、家のことなど、色々みんな迷いま すから、その結果あきらめてしまうケースが多いのではないでしょうか。 僕の経験では、思い続けてる人は必ずデビューしてますね。問題はデビューが最終目的ではないし、如何にそこから長くやり続けて多くの人の評価をもらうこと が大事ですし、よく「あきらめないで」という言葉がありますが、デビューをするという事だけで言えば、本当に想いを貫いていればできると思います。 一番大変なのはデビューを目的にするとその後が空っぽになっちゃうので、デビューをして人のため、自分のために何をするのかちゃんと思っていないと、ぐら ついてしまう部分がでてくる。そういうところをしっかり見据えることが大事なことだと思います。
 
--オーディションを受けるにあたって心構えとは
 
審査をさせてもらう立場から言わせてもらえば、緊張するとかしないとかは採点の対象にはならないと思った方がいいと思います。緊張は殆どの人がしますから。 そこであまり自分のいいところが出せないというのはプロとして今後やっていく時に問題になると思いますが、それもこちらとしては目安としてみてるので、自分だけじゃなくみんな緊張してるんだと思って、オーディションには臨んでもらいたいですね。その緊張の中で自分のやれることをやりきる為にはひたすら練習 しかないですね。他の人はもっとやっているんだろうなと思っていてほしいですね。ましてグランプリっていう事で言うと、一人しか残らないわけですからね。 それは誰かに勝ったり、負けたりするわけですから、そういう意味では真剣勝負だと思います。根拠のない自信を持ってる人も強いんじゃないですかね。
 

--これまで数多くのオーディションの中で「これはスゴい」と思ったことはありますか
 
やっ ぱり印象的だったのはDOUBLEですかね。スタジオでホイットニーヒューストンとか、他の曲も二人で交互に歌ったりして、そのときは飛び上がりましたね。当時、いなかったじゃないですか、
R&Bの本格派でありえないくらい上手い人っていうのが。さっき、上手いのはどうってことないって言いまし たけど、特別うまい人って何か感じるじゃないですか。彼女たちはスゴいと思いましたね。 また彼女たちとは別な意味で印象に残ってるのは馬場俊英君ですね。オーディションテープのダンボールの隅から見つけ出した人なんですけど、オーラと言うよ りとにかく続けるって事に対して真摯な姿勢をもってる人で、優しさの固まりのような人ですが、弱さと強さをきちんと握り締めているようなタイプでしたね。
 

--今回のオーディションは全世界から集まって来るわけですが、松田さんがプロデュースしてみたいというお気持ちは
 
ホ ントにピーンと来たらというのが本音ですね。 僕のいる第三制作部っていうのは世代を超えた音楽を創りだそうという部門です。そういう意味では自分自身の世界観を創れる女性シンガーに関われればいいなと思います。必要なのは時代性ですかね。そういう人との出会いが僕ら制作する人間が一番ドキドキする瞬間ですね。 夢を持ってる人は、結果を気にせずチャレンジして欲しいです。どうせ僕はだめだろう、私はだめだろうという風に思う必要はないと思いますよ。僕が注目するところはやっぱり声質ですかね。


--松田さんが審査のときに注目してるポイントは
 
avexは、ダンサー、俳優、 女優、モデル、歌手という風に分かれていますが、僕はシンガーを中心に見て来ましたが、役者部門で出てる人でこの人は歌える感じがするとか、歌手志望で ももしかしたら芝居の方で芽が出そうだなとか思ったりすることがあるんですよ。 僕の興味はこれまでもこれからもずっと歌しかないのですけど、色々な形で表現すると言うのは良い事だと思います。これは寺尾聰さんがおっしゃっていたので すが、「自分の中で演技と歌を区分けする事はないと思う。芝居がいいなぁって思える人にはリズムやテンポを感じるし、見てると結構みんなそういう風にやっ てる。両方やれる人はどんどんやったほうがいいってみんなに言うんだよ。」そういう部分で共通してるものがありますよね。向き不向きは自分で思うのと、人が見るのとで違う事も多いし。 最後に僕から一つだけお話したいのは、プロフェッショナルを目指してる人を観察する時いつも自分なりに目安にしていることがあるんです。プロの頭文字 「P」「R」「O」をもじって、「P」をPopularity(大衆性)、「R」はReality(日常性)、「O」はOriginality(独創性) という三本の軸をたててその可能性をみるんです。
今活躍しているアーティストにこの三本の棒グラフを当てはめてみると、当然ながらみんなそれぞれ高いところを示すと思いますが、3本が全部揃っている訳でもないのです。ポピュラリティがあって大衆うけはするんですが、オリジナリティつまり個性 が少ないという人だっています。またリアリティが感じられない人はその時代に評価されづらいけど、その分個性は強いからそれが成長の鍵になるかも知れないと言う事もありますから。「P」「R」「O」の三文字を覚えておいて、それを時々確認する事で、自分のいる場所がみえてくる事もあると思います。